『新説 騎士団長殺し』
男は薄暗い路地の中を歩き続ける。ゴキブリが共に歩いている。いつからあるのか分からない小汚い喫茶店を通り過ぎ格安切符やビール券を売りつける雑貨屋を横目にようやく日の当たる場所に出た。出たが、またその先の路地へと進んでいく。突き当りにある看板も出ていない緑色の扉を開ける。バタン。ベルが鳴るわけでもない。男は迷わずカウンターに座った。誰もいない店内だが内装は喫茶店のように見える。
男は目を閉じて手を組んだままカウンターから動かない。
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ようやく意識が戻ってきた。次に誰に会わなければならないのは誰なのか。ここに来れば思い出す。ここに来れば御告げのように頭に響いてくる。
次は「キシダ」に会う。「キシダ」に会って話をしなければならない。何の話を。会えば分かる。どこにいる。出れば分かる。
誰か分からない告げの主に少しだけ感心して扉を開ける。これでキシダに会える。キシダに会えばこの薄ぼんやりした意識の霧が晴れるかもしれない。
(途中)