<連続小説>
子どもの頃、近くの工事現場に友達と出入りしていた。立ち入り禁止の看板をくぐり、木々を走って抜けていくと、そこに大きな砂山があった。ショベルカーで穴を掘り、掘り出された砂が積まれている。それだけのものだった。どれくらいの大きさだったのか思い出せないが、5mくらいあったと思う。
晴れた日の記憶しかないので、きっと雨の日は屋内で遊んでいたのだろう。砂山は程よい固さと脆さで、砂煙を上げながら頂上まで上りきり、砂煙を上げながら滑り台のように地面に戻る。ゆっくりと踏みしめて上ることもできるし、トトトトと駆け下ることもできる。砂を握って友達にかけることもあれば、頭から砂に突っ込むこともある。何の道具も要らない遊び場だった。
ある日、友達が急に来れなくなったので一人で遊びに行くことにした。何か新しい遊び方はないか。一人で考えて友達に教えてあげればきっと喜んでもらえる。横向きにグルグルと回りながら下ってみるとか、逆立ちしながら上ってみるとか。そうこうしているうちに、「頂上からジャンプしてみよう」と思いついた。砂のクッションがあれば痛くない。子どもだった私はそう考えた。
改めて、頂上から見下ろす風景は、とても高かった(と思う)。ジャンプしたらどこまでいくのだろう。分からない。急に足が震えだした。大丈夫なはず。でも、足がつかないことがとても怖い。夕暮れが近いこともあったのかもしれない。赤く照らされる砂が、カラスの鳴き声が、すべて不気味に思える。友達もいない不安もあった。でも、思いついたんだからやらなきゃ。
「何をしているんだ! 早く下りなさい!」
ビクッとなり振り替えると、工事現場のおじさんがいた。勝手に入ったことがバレた。怒られる。するすると砂の山を下り、おじさんの下に行く。
「立ち入り禁止の看板があったよね。ここは危ないから入っちゃダメなんだよ」
おじさんは笑って、優しく話しかけてくれた。いま思うと、子どもの遊び場に理解を示してくれたのかもしれない。おじさんに付き添われて、入口まで歩いた。他に何を話したのかよく覚えていないのは、きっと緊張していたからだろう。どれだけ怒られるか不安に思っていた私は、でも、ここで遊んじゃダメなんだ、とよく理解できた。怒鳴られても同じだったかもしれないが、おじさんとの約束を守ろうと思ったはずだ。
「友達にも言っておいてね。無事に帰るんだよ」
そう言っておじさんは止めておいた車に乗り込んだ。夕焼けに照らされながら去っていく車のことはよく覚えている。カッコよかったからだ。
あれから二十年。今でもおじさんと、乗っていた車に憧れて、働いている。
レクサス、それは紳士の車。
微笑むプレミアム。